「矯正をしたら顔が変わった」という話は、よく聞きます。一方で「頬がこけた」「面長になった」という声もあり、どちらを信じてよいのか分からなくなります。

歯科の立場から言えることは、はっきりしています。矯正治療で動かせるのは歯と、歯を支える骨(歯槽骨)です。 その結果として、その外側にある唇の位置は変わります。 一方で、あごの骨そのものの大きさや輪郭は、矯正治療では変わりません。

「顔が変わる」と言われている現象の中身は、ほとんどが口元(軟組織)の位置の変化です。そして、どれくらい変わるかは動かす量と唇の厚みによって違い、事前にある程度は予測できます。

この記事では、変わるもの・変わらないものを切り分け、実際の数値を示しながら説明します。当院(横浜 まつざわ矯正歯科)で治療前にお伝えしている内容です。

なお、変化の程度には個人差があります。以下は一般的な整理であり、実際の見通しは検査のうえでご説明します。

矯正治療で変わるもの、変わらないもの

区分 項目 詳細
変わり得るもの 唇の位置・横顔の印象 前歯の移動に伴い唇の位置が変わり、鼻先・唇・あご先のバランスが変化することがある
口元の緊張・あご先のしわ 口が閉じやすくなることで、オトガイ部の梅干し状のしわが緩和されることがある
笑ったときの歯の見え方 歯並びや歯の位置が変わることで、笑顔の印象が変化することがある
基本的に変わらないもの あごの骨格・エラの張り 通常の歯列矯正では、あごの骨そのものの大きさや形は変わらない
鼻の高さ・形 歯の移動によって鼻そのものの形は変わらない
顔の骨格の左右差 歯並びを整えても、骨格自体の左右差は基本的に変わらない
顔の脂肪の量 歯列矯正によって直接変化するものではない

「小顔になる」「輪郭が変わる」といった表現が出回りますが、歯を動かす治療で骨格が変わることはありません。 変わって見えるとすれば、それは口元の位置が変わったことによる印象の違いです。

口元の変化は、数値で示されています

横顔の口元の位置を評価する方法として、E-line(エステティックライン)が広く使われています。鼻の先端とあご先の最前点を結んだ直線を引き、そこから上下の唇の最前点までの距離を測るというものです。

ここで注意が必要なのは、よく引用される基準値が日本人のものではないことです。日本舌側矯正歯科学会の会誌に掲載された研究は、Ricketts分析の平均値である上唇−4mm・下唇−2mmについて、コーケジアン(白人)の平均値であることが推察されるとしています。

同研究では、非接触3次元デジタイザを用いて日本人の正常咬合者70名の顔面を3次元で計測し、日本人のE-lineの平均値を算出しています。

  • 上唇:−0.77mm
  • 下唇:+0.80mm

つまり、日本人の平均は、E-line上とその前後わずかなところにあります。 「E-lineより内側に入っていなければならない」という基準は、そのまま当てはめられるものではありません。

同研究は「歯科矯正治療では前歯の位置を大きく変化させることで、治療後の顔面形態にも変化をもたらすことがしばしば認められる」としたうえで、口唇の突出感を伴う症例に対して上顎前歯を舌側(内側)へ移動させ、この平均値に近づける治療が、良好な横顔をもたらす可能性を示唆しています。

どれくらい変わるかは、唇の厚みで違います

同じ研究には、実際の症例で前歯をどれだけ動かすと、唇がどれだけ下がったかが示されています。どちらも上あごの第一小臼歯を抜いてマルチブラケット装置で治療した例です。

唇が薄い症例

上顎中切歯を4.5mm後退させたところ、

  • 上唇は 3.0mm 後退(前歯の後退量の66.7%が反映)
  • 下唇は 4.0mm 後退(88.9%が反映)

唇が厚い症例

上顎中切歯を6.5mm後退させたところ、

  • 上唇は 3.0mm 後退(46.2%が反映)
  • 下唇も 3.0mm 後退(46.2%が反映)

同研究の結論は、「口唇閉鎖時に口唇の厚みが薄い症例と比較すると、口唇が厚い症例では上顎前歯の後退が上下口唇の前後的形態に影響を与えにくいことが示唆された」というものです。

ここから分かることが2つあります。

① 前歯を動かした量が、そのまま唇の移動量になるわけではない。 反映率は半分弱から9割近くまで幅があります。

② 同じだけ動かしても、唇が厚い方は変化が出にくい。 「たくさん動かせば、それだけ口元が下がる」とは限りません。

同研究は、「口唇の突出感を改善する矯正治療では、治療前に矯正歯科医が理想と考える顔面形態について患者に説明した上で、前歯・口唇の後退量を予測し、動的治療中もそれらの変化を観察しながら治療目標をめざすことが重要である」と述べています。

変化は、始める前に見通しを共有すべき項目だということです。

「頬がこける」「老けて見える」の中身

心配としてよく挙がるものを、ひとつずつ見ていきます。

頬がこける。

矯正治療は歯と歯槽骨を動かす治療で、頬の脂肪や筋肉の量を減らすものではありません。 ただし、治療中に硬いものが噛みにくくなり、食事の内容が変わって体重が落ちる方はいます。頬の印象が変わったとすれば、そちらの影響が考えられます。

老けて見える。

この言葉の中身は、多くの場合2つです。ひとつは口元が後退したことによる印象の変化。もうひとつがブラックトライアングルです。

ブラックトライアングルとは、重なっていた歯を並べたときに、歯と歯の間の根元側に見える三角形の隙間のことです。歯ぐきが下がっている場合に起こりやすく、もともとの歯ぐきの状態と歯の形に左右されます。 起こり得ることとして、事前にご説明する項目です。

面長になる。

噛み合わせの高さが変わると、あごの位置関係が変わることはあります。ただし、あごの骨そのものが伸びるわけではありません。 治療計画の中で噛み合わせの高さをどう扱うかは、検査結果に基づいて決めます。

エラの見え方が変わる。

エラの張りは、下あごの角の骨の形と、その上を覆う咬筋(かみしめるときに硬くなる筋肉)の厚みで決まります。歯を並べる治療で、骨の形が変わることはありません。 噛みしめの癖が変われば筋肉の使い方は変わり得ますが、それを目的とする治療ではありません。

歯ぐきが下がる。

これは印象の話ではなく、実際に起こり得る変化です。歯を動かす過程で歯肉が退縮することがあり、歯が長く見えるようになります。もともと歯ぐきが薄い方、歯周病があった方で起こりやすく、動かす方向と量、そして始める前の歯周組織の状態が関わります。

骨格そのものを変えたい場合は

歯を動かす治療の範囲を超えて、あごの骨格に大きなずれがある場合は、外科的な処置を伴う治療が検討されます。

日本矯正歯科学会によると、顎変形症(顎離断等の手術を必要とするもの)の手術前・後の矯正歯科治療は、保険診療の適用になり得ます。ただし、これを行えるのは厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生(支)局長に届け出た保険医療機関に限られます。

同学会が示す保険適用の3つの場合は、次のとおりです。

  • 厚生労働大臣が定める疾患(唇顎口蓋裂、ダウン症候群、マルファン症候群など66の指定疾患)に起因する咬合異常
  • 前歯および小臼歯の永久歯のうち3歯以上の萌出不全に起因した咬合異常(埋伏歯開窓術を必要とするもの)
  • 顎変形症の手術前・後の矯正歯科治療

これに当てはまらない矯正治療は、原則として自由診療(保険適用外)です。

変化を予測してから、始める

当院では、次の順番で進めます。

① 簡易検査(2,200円・税込)

今の状態を見て、選択肢をご説明します。

② 精密検査(22,000円・税込)で、横顔を分析します

頭部のレントゲン(セファログラム)、歯型、写真などを撮り、鼻先・唇・あご先の位置関係を計測します。

③ 診断(11,000円・税込)で、変化の見通しをお伝えします

前歯をどれだけ動かすか、その結果として口元がどう変わり得るかを、計測値と画像でご説明します。方針・装置・期間・費用も、ここでお示しします。納得いただいてから始めます。

④ 治療中の確認

先ほどの研究も述べているとおり、動かしている最中も変化を観察しながら目標に近づけていきます。

「思っていたのと違った」という結果を避けるには、言葉ではなく数値と画像で共有しておくことがいちばん確実です。

抜歯の有無で、口元の変化は変わります

口元の位置に最も影響するのは、前歯を後ろへ動かせる量です。そしてその量は、スペースをどれだけ作れるかで決まります。

歯を抜いてスペースを作れば、前歯を大きく後ろへ動かせます。抜かずに並べる場合、スペースの作り方は限られ、前歯はむしろ前方に出る方向へ動くことがあります。

つまり、「抜歯したくない」という希望と、「口元を下げたい」という希望は、両立しないことがあります。 どちらを優先するかは、検査結果を見ながらご相談いただく項目です。

日本矯正歯科学会も、矯正治療のリスクとして「やむを得ず、健康な歯を抜くことがある」ことを挙げています。抜歯は目的ではなく、必要な移動量を確保するための手段です。

費用・期間・リスク

矯正治療は原則として自由診療(保険適用外)です。当院の費用は次のとおりで、表示はすべて税込です。

区分 項目 費用(自由診療・税込)
検査・診断 簡易検査 2,200円
検査・診断 精密検査 22,000円
検査・診断 診断 11,000円
ワイヤー矯正 表側矯正 990,000円
ワイヤー矯正 ハーフリンガル 1,320,000円
ワイヤー矯正 舌側矯正(裏側矯正) 1,485,000円
マウスピース矯正(ハイブリッド) フル 1,100,000円
処置料+技術料 成人矯正/舌側矯正 6,600円/7,700円

※ワイヤー矯正は処置料が別途かかります(アンカースクリュー料込み)。マウスピース矯正は処置料込み・アンカースクリュー料込みですが、治療の途中でワイヤーを一時的に使用する場合は別途処置料5,500円(税込)がかかります。抜歯の費用は別にかかります。

標準的な治療期間・回数:日本矯正歯科学会は、装置を入れておく期間を2〜3年程度としています。簡単な治療では半年程度で済む場合もあります。通院は装置装着中、おおむね1か月に1回。装置を外したあとも保定装置を使いながらの経過観察が続きます。

主なリスク・副作用:装置装着後や調整後の痛み・違和感。清掃が難しくなることによるむし歯・歯ぐきの炎症。歯根吸収(歯の根が短くなる)。歯肉退縮(歯ぐきが下がる)とブラックトライアングル。後戻り。あごの関節の症状。抜歯を伴う場合は抜歯に伴うリスク。口元の変化の程度には個人差があり、希望どおりの変化が得られるとは限りません。 自由診療のため、費用は全額自己負担です。

当院でできること

横浜 まつざわ矯正歯科(横浜市神奈川区反町)は、矯正歯科を専門とする医院です。

  • 精密検査(セファログラムを含む)による横顔の分析
  • 前歯の移動量と、口元の変化の見通しのご説明
  • 舌側矯正(裏側矯正)/表側矯正/ハーフリンガル矯正
  • マウスピース矯正/ハイブリッド矯正
  • 部分矯正(適応の範囲内で)
  • お子さまの矯正治療/口腔筋機能療法(MFT)
  • 一般歯科治療(むし歯の治療)

院長は舌側矯正(裏側矯正)を専門とする医院での勤務を経て開院しています。当院の舌側矯正は、正面から装置が見えないこと、装置が唾液で殺菌されるため虫歯になりにくいこと、他の矯正方法と比べて治療期間はほぼ変わらないことを特長として挙げています。一方で、舌の違和感が大きく慣れるまでしゃべりにくくなる可能性があり、オーダーメイドの製作が必要なため費用は割高になります。

診療時間は10:00〜13:00/14:00〜18:30(月曜・金曜は13:00〜20:00)、休診は木・日・祝日です。電話は045-321-6665。東急東横線 反町駅から徒歩3分です。

「口元をどうしたいか」を最初にお聞かせください。そこから逆算して、動かす量と方法を組み立てます。

▶ ワイヤー矯正(舌側・表側・ハーフリンガル)

▶ 矯正治療費用

▶ よくある質問

よくある質問

Q. 矯正をすると小顔になると聞きました。

A. 骨格そのものは、歯を動かす治療では変わりません。 変わるのは口元(唇)の位置です。印象が変わることはありますが、輪郭が小さくなるという治療ではありません。

Q. 口元が引っ込むかどうかは、事前に分かりますか。

A. 精密検査で、ある程度は予測できます。 ただし、前歯の後退量がそのまま唇の後退量になるわけではありません。研究では、反映率が46.2%〜88.9%と症例によって幅がありました。

Q. 唇が厚いと、変化が出にくいのですか。

A. そのような報告があります。日本舌側矯正歯科学会の会誌に掲載された研究では、口唇が厚い症例では上顎前歯の後退が口唇の前後的形態に影響を与えにくいことが示唆されています。

Q. E-lineの中に入れば理想的なのですか。

A. そのまま当てはめられるものではありません。 よく引用される上唇−4mm・下唇−2mmという値は白人の平均値と推察されており、日本人の正常咬合者70名を計測した研究では上唇−0.77mm・下唇+0.80mmでした。

Q. 頬がこけると聞きました。

A. 矯正治療は頬の脂肪や筋肉を減らす治療ではありません。 ただし、治療中に食事の内容が変わることで体重が落ちる方はいます。

Q. エラは小さくなりますか。

A. エラの見え方は下あごの骨の形と咬筋の厚みによります。歯を並べる治療で骨の形は変わりません。

Q. 骨格のずれが原因だと言われました。

A. あごの骨格に大きなずれがある場合、外科的な処置を伴う治療が検討されます。顎変形症の手術前後の矯正は保険診療の対象になり得ますが、届出を行った医療機関でのみ実施できます。

Q. 抜歯しないと口元は下がりませんか。

A. 前歯を後ろへ動かせる量は、作れるスペースの量で決まります。 抜かずに並べる場合、前歯が前方へ動くことがあります。ご希望と検査結果を照らし合わせてご説明します。

まとめ

  • 矯正治療で動くのは歯と歯槽骨。その結果として唇の位置は変わるが、あごの骨格・エラ・鼻は変わらない
  • 横顔の評価に使うE-lineは、よく引用される上唇−4mm・下唇−2mmが白人の平均値とされる。日本人の正常咬合者70名の計測では上唇−0.77mm・下唇+0.80mm(永田、2023)
  • 前歯の後退量がそのまま唇の後退量になるわけではない。反映率は46.2%〜88.9%と症例で幅がある
  • 唇が厚い症例では、前歯の後退が口唇の形に影響しにくいことが示唆されている
  • 「頬がこける」「老けて見える」の中身は、口元の後退とブラックトライアングル、そして治療中の食生活の変化
  • 骨格そのものに大きなずれがある場合は、外科的な処置を伴う治療が検討される(顎変形症の手術前後の矯正は保険適用になり得る)
  • 口元を下げたいなら、動かせるスペースをどう作るか(抜歯の要否)が直結する

顔の変化は、期待でも噂でもなく、検査で測って予測する項目です。始める前に、数値で共有しておきましょう。

矯正のご相談は、横浜・反町の横浜 まつざわ矯正歯科で承っています。

監修者情報

松澤 匡純 院長

横浜 まつざわ矯正歯科 院長

松澤 匡純(まつざわ まさずみ)

2009年 歯科医師免許取得。2014年 歯学博士号取得。舌側矯正(裏側矯正)を専門とする医院、および都内の矯正歯科医院での勤務を経て、当院院長に就任。

※本記事は一般的な情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療に代わるものではありません。歯並びの状態には個人差があります。実際の治療方針・期間・費用は、検査と診断のうえで決定します。

参考文献