歯並びを治したいと思って調べ始めると、「大人の矯正はやめたほうがいい」という言葉に行き当たります。費用も期間も小さくない治療ですから、迷って当然です。

大人の矯正治療は、多くの方にとって成立する治療です。日本矯正歯科学会も「中・高年の方々も治療が可能となってきました」としています。一方で、慎重に判断すべき条件は確かに存在します。 そして「やめたほうがいい」として語られている理由の中には、事実であるものと、誤解が混ざっているものがあります。

よく挙げられる理由を一つずつ検証し、本当に慎重になるべきケースを整理します。当院(横浜 まつざわ矯正歯科)が普段お伝えしている内容です。

なお、判断はお口の状態によって変わります。実際には検査のうえで判断します。

「やめたほうがいい」の理由は、だいたい6つに整理できます

① 費用が高い——事実です。矯正治療は原則として自由診療(保険適用外)で、全額自己負担になります。日本矯正歯科学会もリスクのひとつとして「保険適用外で高額になることがある」と挙げています。

② 期間が長い——事実です。同学会は、装置を入れておく期間が「2〜3年程度」かかるとしています。さらに、装置を外したあとも保定装置を使う期間が続きます。

③ 痛い——装置を付けた直後や調整後に痛みや違和感が出ることがあります。同学会もリスクとして「装置装着による痛みやストレス」を挙げています。程度には個人差があります。

④ 後戻りする——起こり得ます。だからこそ保定装置が必要になります。

⑤ 歯の根が短くなる、歯ぐきが下がる——起こり得ます。歯を動かす以上、歯根吸収や歯肉退縮は一定の頻度で生じます。

⑥ 老けて見える、顔が変わる——これは条件つきです。歯を後ろへ動かせば口元は下がります。ただし、その変化がどれくらい出るかは、動かす量と口唇の厚みによって違います。

①〜⑤は、すべて事実です。ただ、これらは治療の性質であって、受けるべきでない理由とは別のものです。手術に痛みが伴うことが、手術をしない理由に直結しないのと同じです。

問題は、その負担に見合う理由が自分にあるか、そして受けるうえでの条件を満たしているかです。

成人の矯正で、実際に難しい点

年齢に上限はありません。ただし、大人ならではの条件はあります。

歯が動きにくい。日本矯正歯科学会は、中・高年の治療について「その年齢では成長・発育は終了しており、歯の移動が円滑でないため治療期間が長くなることが多いようです」としています。子どものように、あごの成長を利用して並べる場所を作るという方法が取れません。

あごの成長を使えないぶん、スペースの作り方が限られる。歯列を広げる方法は、成長期ほどの効果が見込めません。抜歯、歯の側面をわずかに削る、奥歯を後ろへ動かす——といった方法から選ぶことになります。

歯周組織の状態が土台になる。ここが最も重要です。詳しくは次に述べます。

すでに治療した歯がある。被せ物、詰め物、神経を取った歯、失った歯——これらがあると、動かし方や順番の設計が複雑になります。

生活の制約がある。仕事、育児、転勤。2〜3年の通院を続けられるかどうかは、現実的な条件です。

本当に慎重になるべきケース

次に当てはまる場合は、始める前に整理しておくべきことがあります。

① 歯周病が進行している

これがいちばん大きな条件です。歯を支える骨が減っている状態で歯に力をかけると、動揺が強まったり、骨の吸収が進んだりすることがあります。

ただし、これは「矯正できない」という意味ではありません。歯周病の治療を先に行い、炎症が落ち着いてから矯正に入るという順番を取ります。歯ぐきの状態が安定していれば、歯並びを整えることで清掃しやすくなり、結果として歯周病の管理がしやすくなる面もあります。

② 通院を続けられる見通しが立たない

矯正治療は、装置を付けている間、おおむね1か月に1回の通院が必要です。途中で通院が途切れると、歯が中途半端な位置で止まったり、装置が当たって傷ができたりします。転居の予定、長期の出張、出産などがある場合は、その時期を織り込んで計画を立てます。

③ 目的が「顔を変えること」になっている

矯正治療は、歯と歯を支える骨を動かす治療です。その結果として口元の位置は変わり得ますが、骨格そのものを変える治療ではありません。「小顔にしたい」「輪郭を変えたい」という目的で始めると、期待とのずれが生じます。

なお、あごの骨格そのものに大きなずれがある場合は、外科的な処置を伴う治療の対象になることがあります。日本矯正歯科学会によれば、顎変形症(顎離断等の手術を必要とするもの)の手術前・後の矯正歯科治療は保険診療の適用になり得ます。ただし、実施できるのは施設基準の届出を行った医療機関に限られます。

④ むし歯や歯ぐきの炎症が放置されている

装置が付くと、清掃はさらに難しくなります。始める前に治しておくべきものは、先に治します。

⑤ 服用している薬を伝えていない

骨の代謝に関わる薬をはじめ、治療に影響し得る薬があります。服用中の薬は、必ずすべてお申し出ください。判断は歯科医師が行います。

⑥ 装置の管理ができない

とくにマウスピース型の装置は、装着時間が結果を左右します。日本矯正歯科学会も、マウスピース型矯正装置について毎日長時間の装着が必要であること、精密な歯の移動は原則として困難であること、満足のいく治療結果が得られない可能性があることを見解として示しています。

誤解されていること

一方で、「やめたほうがいい」の理由として語られるもののうち、そのままでは正しくないものもあります。

「大人は手遅れ」——違います。年齢の上限はありません。歯と歯ぐきの状態が条件です。

「必ず抜歯になる」——違います。抜歯の要否は、足りないスペースの量で決まります。不足が小さければ、歯の側面をわずかに削る、奥歯を後ろへ動かす、といった方法で対応できることがあります。ただし日本矯正歯科学会も、矯正治療では「やむを得ず、健康な歯を抜くことがある」としています。抜かないことを目的にすると、無理な並べ方になることがあるという点も知っておいてください。

「装置が目立つから社会人には無理」——選択肢があります。歯の裏側に装置を付ける舌側矯正(裏側矯正)は、正面から装置が見えません。当院のご説明では、他の矯正方法と比べて治療期間はほぼ変わらないとしています。一方で、舌の違和感が大きく慣れるまでしゃべりにくくなる可能性があり、費用は割高になります。

「途中でやめられない」——中断はできます。ただし、中途半端な位置で装置を外すと、噛み合わせが不安定なまま残ります。やめる場合も、歯科医師と相談して外してください。自己判断で放置するのがいちばん避けたい形です。

「歯が全部ダメになる」——起こり得るのはリスクとしての歯根吸収・歯肉退縮であって、必然ではありません。 力のかけ方と経過観察で管理します。

「老けて見える」と言われることについて

これは、条件を分けて考える必要があります。

矯正治療で前歯を後ろへ動かすと、その外側にある口唇の位置も変わります。日本舌側矯正歯科学会の会誌に掲載された研究(永田、2023)では、上顎前歯を後退させたときに口唇がどれだけ後退するかが症例ごとに示されています。

  • 口唇が薄い症例:上顎中切歯を4.5mm後退させたところ、上唇は3.0mm(反映率66.7%)、下唇は4.0mm(88.9%)後退した
  • 口唇が厚い症例:上顎中切歯を6.5mm後退させたところ、上唇・下唇ともに3.0mm(いずれも46.2%)の後退にとどまった

同研究は、「口唇の厚みが薄い症例と比較すると、口唇が厚い症例では上顎前歯の後退が上下口唇の前後的形態に影響を与えにくいことが示唆された」としています。

口元の変化の出方には個人差がありますが、事前にある程度予測可能です。同研究も、「治療前に矯正歯科医が理想と考える顔面形態について患者に説明した上で、前歯・口唇の後退量を予測し、動的治療中もそれらの変化を観察しながら治療目標をめざすことが重要である」と述べています。

もうひとつ、ブラックトライアングルという現象があります。重なっていた歯を並べると、歯と歯の間の根元側に、三角形の隙間が見えることがあります。これは歯ぐきが下がっている場合に起こりやすく、もともとの歯ぐきの状態と歯の形に左右されます。起こり得ることとして、事前にご説明しています。

「老けて見える」と言われる理由は、主にこの2つ(口元の後退、ブラックトライアングル)です。どちらも、始める前に見通しを共有できる項目です。

やると決めた場合、結果を左右する条件

やると決めた場合、結果を左右する条件

① 始める前に、歯ぐきとむし歯を片づける

土台が不安定なまま動かさない。これが最優先です。当院では一般歯科治療(むし歯の治療)も行っています。

② 清掃を続けられるようにする

装置が付くと磨きにくくなります。むし歯や歯ぐきの炎症が起こりやすくなるのは事実です。道具と磨き方を最初に決めておきます。

③ 通院の予定を現実的に組む

おおむね月1回。この頻度を2〜3年続けられるかを、始める前に見積もります。

④ 保定を軽く見ない

装置を外したあと、歯は元に戻ろうとします。保定装置を決められたとおりに使うことが、結果を保つ条件です。

⑤ 目的を言葉にしておく

「奥歯で噛めるようにしたい」「前歯の重なりをなくして磨きやすくしたい」「口元の突出を抑えたい」——目的が具体的なほど、方針を合わせやすくなります。

費用・期間・リスク

矯正治療は原則として自由診療(保険適用外)です。当院の費用は次のとおりで、表示はすべて税込です。

区分 項目 費用(自由診療・税込)
検査・診断 簡易検査 2,200円
検査・診断 精密検査 22,000円
検査・診断 診断 11,000円
ワイヤー矯正 表側矯正 990,000円
ワイヤー矯正 ハーフリンガル 1,320,000円
ワイヤー矯正 舌側矯正(裏側矯正) 1,485,000円
マウスピース矯正(ハイブリッド) フル 1,100,000円
部分矯正 表側/舌側 165,000〜550,000円/275,000〜990,000円
処置料+技術料 成人矯正/舌側矯正 6,600円/7,700円

※ワイヤー矯正は処置料が別途かかります(アンカースクリュー料込み)。マウスピース矯正は処置料込み・アンカースクリュー料込みですが、治療の途中でワイヤーを一時的に使用する場合は別途処置料5,500円(税込)がかかります。抜歯や、事前に必要な治療の費用は別にかかります。

標準的な治療期間・回数:装置を入れておく期間は2〜3年程度(日本矯正歯科学会)。簡単な治療では半年程度で済む場合もあります。通院は装置装着中、おおむね月1回。装置を外したあとも、保定装置を使いながらの経過観察が続きます。

主なリスク・副作用:装置装着後や調整後の痛み・違和感。清掃が難しくなることによるむし歯・歯ぐきの炎症。歯根吸収(歯の根が短くなる)。歯肉退縮(歯ぐきが下がる)とブラックトライアングル。後戻り。あごの関節の症状。抜歯を伴う場合は抜歯に伴うリスク。

当院でできること

横浜 まつざわ矯正歯科(横浜市神奈川区反町)は、矯正歯科を専門とする医院です。

  • 精密検査による診断(歯周組織の状態、スペースの不足量、抜歯の要否を含む)
  • 舌側矯正(裏側矯正)/表側矯正/ハーフリンガル矯正
  • マウスピース矯正/ハイブリッド矯正
  • 部分矯正(適応の範囲内で)
  • 一般歯科治療(むし歯の治療)
  • 口腔筋機能療法(MFT)
  • お子さまの矯正治療

診療時間は10:00〜13:00/14:00〜18:30(月曜・金曜は13:00〜20:00)、休診は木・日・祝日です。月曜・金曜は20時まで診療しています。電話は045-321-6665。東急東横線 反町駅から徒歩3分です。

「やめたほうがいいのか知りたい」というご相談で構いません。検査をすれば、慎重になるべき条件に当てはまるかどうかが分かります。そのうえで、やらないという判断も含めてご検討ください。

▶ ワイヤー矯正(舌側・表側・ハーフリンガル)

▶ 矯正治療費用

▶ よくある質問

よくある質問

Q. 何歳まで治療できますか。

A. 年齢の上限はありません。ただし、歯周組織の状態が条件になります。日本矯正歯科学会は、成人では歯の移動が円滑でないため治療期間が長くなることが多いとしています。

Q. 歯周病があると言われています。矯正はできませんか。

A. 順番の問題です。歯周病の治療を先に行い、炎症が落ち着いてから矯正に入ります。進行の程度によって判断は変わりますので、検査でご確認ください。

Q. 途中でやめられますか。

A. 中断はできます。ただし、中途半端な位置で外すと噛み合わせが不安定なまま残ります。自己判断で放置せず、必ずご相談ください。

Q. 費用はいつ払うのですか。

A. 検査・診断の費用と、治療そのものの費用は別です。お支払いの方法については、診断のときにご説明します。

Q. 老けて見えるようになりますか。

A. 前歯を後ろへ動かせば、口元の位置は変わります。変化の程度は、動かす量と口唇の厚みによって違います。研究では、口唇が厚い症例のほうが変化が出にくいことが示されています。事前に見通しをご説明します。

Q. ブラックトライアングルとは何ですか。

A. 歯を並べたときに、歯と歯の間の根元側に見える三角形の隙間です。歯ぐきが下がっている場合に起こりやすくなります。起こり得ることとして、事前にご説明します。

Q. マウスピースだけで治せますか。

A. 程度によります。日本矯正歯科学会は、マウスピース型矯正装置について適応が限定的であるという見解を示しています。当院ではワイヤーとの組み合わせもご提案しています。

Q. 保険は使えますか。

A. 原則として自由診療です。保険が使えるのは、厚生労働大臣が定める疾患に起因する咬合異常、3歯以上の永久歯の萌出不全、顎変形症の手術前後の矯正の3つに限られ、届出を行った医療機関でのみ実施できます。

Q. 飲んでいる薬があります。伝えるべきですか。

A. 必ずすべてお申し出ください。骨の代謝に関わる薬など、治療の判断に影響するものがあります。

まとめ

  • 「やめたほうがいい」の理由(費用・期間・痛み・後戻り・歯根吸収や歯肉退縮)は、いずれも事実。ただしそれは治療の性質であって、受けるべきでない理由とは別
  • 成人では、歯の移動が円滑でないため治療期間が長くなることが多い(日本矯正歯科学会)
  • 本当に慎重になるべきなのは、①歯周病が進行している ②通院を続けられない ③目的が顔を変えることになっている ④むし歯や炎症が放置されている ⑤服薬を伝えていない ⑥装置の管理ができない
  • 誤解されがちなのは、「大人は手遅れ」「必ず抜歯」「装置が目立つから無理」「途中でやめられない」
  • 「老けて見える」の中身は、口元の後退とブラックトライアングル。どちらも事前に見通しを共有できる
  • 口元の変化の出方には個人差があり、口唇が厚い症例では前歯の後退が口唇に反映されにくいという報告がある
  • やると決めたら、歯ぐきとむし歯を先に片づけ、清掃を続け、通院を計画し、保定を守る

迷っている段階での受診も可能。検査をして「やめたほうがいい条件に当てはまらない」と分かることにも意味がある

歯列矯正のご相談は、横浜・反町の横浜 まつざわ矯正歯科で承っています。

監修者情報

松澤 匡純 院長

横浜 まつざわ矯正歯科 院長

松澤 匡純(まつざわ まさずみ)

2009年 歯科医師免許取得。2014年 歯学博士号取得。舌側矯正(裏側矯正)を専門とする医院、および都内の矯正歯科医院での勤務を経て、当院院長に就任。

※本記事は一般的な情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療に代わるものではありません。歯並びの状態には個人差があります。実際の治療方針・期間・費用は、検査と診断のうえで決定します。

参考文献